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論文を書いて「まっとうな仕事」に変える

社会人の方に提言したいことがあります。レポートを書くとか論文を書くということを日常の業務に組み込むことです。情報技術の活用によって、仕事が容易になり、AIやロボットに仕事を奪われるということが指摘されますが、日々の業務で論文などを活用し、取り入れることで、みなさんの仕事の質は明らかに向上します。特に論文は論理的な思考力を鍛えて、論述の出所を引用として示す必要があるのでごまかしができません。その点でおすすめです。少し迂遠ですが、私が仕事に論文を取り入れようと思った動機をお伝えします。

あるとき、子どもの家庭の経済的な格差が、教育を受ける機会の格差につながるということを論じた書籍を読む機会がありました。そして、次のような記述に出会います。それは、貧富の差に関係なく、あらゆる子どもが教育を受けて「まっとうな仕事」を得られるようにすべきというものでした。何かこの表現に違和感があったのですが、それがなにかに気がつきました。この表現に違和感を覚えた人はどれだけいるでしょうか。

この「まっとうな仕事」の表現の裏には、「まっとうでない仕事」があるということになりませんか。しかし、「まっとうでない仕事」が世の中にあるでしょうか。職業に貴賤はありませんので、どんな仕事もまっとうなはずです。高等教育を受けたり、資格を取得したりしなければできない仕事もありますが、そうでなくても就ける職業はいくらでもあります。それらもすべて「まっとうな仕事」です。

そして、私がこの「まっとうな」という表現を使うなら、自分のまっとうでない仕事を、まっとうな仕事に変えるという時にだけ、この言葉を使いたいと思ったのです。ちょっと難解な説明になったかもしれませんが、少し具体的に説明しましょう。

たとえば、私は金融業に長く勤めています。目に見えない金融商品を販売するには、金融商品に関する説明がとても大切です。これがうまくできる人と、そうでない人では成果が異なります

しかし、1990年代半ばから、ビジネスの世界でも普通にWordやPower Point、ExcelといったITツールが活用されるようになりました。これは、金融商品を売る側の助けになっています。特に、Power Pointは、事前にそれなりの資料を作成しておけば、金融商品に深い理解がなくても、容易に説明できる道具になったのです。

言い方はよくないですが、「紙芝居」でビジネスができるようになったということです。もちろん、紙芝居も立派な仕事であることを補足いたします。しかし、金融の世界で、商品の中身を深く理解せずに、簡便に相手を説得できるツールができたことで、どうも自分の金融商品に関する理解が浅くなったように感じたわけです。すなわち、いいかげんでも、難解な商品を売れるようになった。

しかし、洞察力のある顧客は、ときに、金融商品の矛盾を突いた、鋭い質問をしてくることがあります。この時、正確に回答でき、顧客を説得できるのが「まっとうな仕事」で、曖昧な回答でごまかしながら、逃げ切るのが「まっとうでない仕事」となるわけです。このごまかしながら逃げ切るというのは、金融の専門家と顧客の間でよく見られる光景です。ここを徹底的に改善して、自分の仕事を「まっとうな仕事」にしたいと思ったわけです。

意外にも、論文などを通して文章を書くことで、自分の仕事が洗練され、単調な業務を高みに引き上げることもできるかもしれません。私が論文執筆を通じて獲得できたメリットは数えきれません。すぐに成果は感じられないかもしれませんが、何年か継続していると、必ず仕事のレベルが上がり、より高い次元で業務遂行できるようになるでしょう。そして、自分の「まっとうでない仕事」を「まっとうな仕事」に変えることで、仕事自体を楽しむことができるようになります。一度試してみることをおすすめします。違う視界が開けてくるでしょう。

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