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【ワクチンの境界】序章 私たちは何をしてきたのか   –2年後 —

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「今日の私たちは、自己の倫理を再構成しようと努力しているとはとても言えないような状態である。」

                            ――― ミシェル・フーコー

2年後

 2021年11月29日、岸田文雄首相は「オミクロン株に対する水際対策等についての会見」 を行い、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株に対処するため、全世界からの外国人の新規入国を停止する、と発表しました。オミクロン株は南アフリカで発見され、世界保健機関(WHO)から「懸念される変異株」に指定されたものですが、この時点では、この変異株がこれまでのウイルスよりも強毒であるという証拠は得られていませんでした。

 中国武漢でこれまでとは異なる新型肺炎の患者が見つかり始めたのは2019年末でした。この病毒は同年末にWHOに報告され、新型のコロナウイルスであることが判明します。その後、ウイルスは瞬く間に世界に拡大し、WHOは2020年3月12日に新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックを宣言しました。

 それから2年にわたって、世界は新型コロナウイルス感染症と闘ってきました。当初は、有効な薬がないため、各国政府はロックダウンなどの都市封鎖を繰り返すしかありませんでした。そこに、感染症対策の切り札として、ワクチンの投与が2020年末から開始されました。しかし、ワクチンによっても、感染を完全に封じ込めることは困難であることが明らかとなって、各国政府は当初は予定されていなかったワクチンの追加接種を実施するようになりました。そして、2021年末には冒頭に述べたように、まだ影響のよく分からないオミクロン株に対しても、世界は従前と同じ対策を打つようになりました。これはまさに、2年前に世界各国が新型コロナウイルスを恐れて、次々と渡航制限を拡大していった風景と同じでした。

 日本の状況を見れば、2021年11月29日の新規感染者数はわずか82人で、新型コロナウイルス感染症はほとんど無視できる程度に減少し、ワクチンの接種率も70%を超えていました。しかも、緊急事態宣言解除後も、政府が要求するマスクの着用やソーシャルディスタンスの確保を、ほとんどの国民が忠実に守っており、新型コロナウイルスの「懸念される変異株」についても、アルファ株やデルタ株ですでに経験済みでした。それにもかかわらず、オミクロン株の脅威が全く分かっていない段階で、政府が下す判断は2年前と同じでした。この決定についてマスコミは大きく取り上げ、日本の主要5紙 は、いずれも社説において、基本的に政府の判断を支持して早期の徹底的な対策を求めました。  この2年間、私たちは、いったい何をしてきたのでしょうか。


ミシェル・フーコー「1982年2月17日の講義」『ミシェル・フーコー講義集成第11巻 主体の解釈学』筑摩書房、2004年、294ページ。

首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2021/1129kaiken2.html)(2021年11月30日閲覧)。

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞の2021年11月30日の社説もしくは主張(産経新聞)。

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ワクチンの境界 ― 権力と倫理の力学(國部克彦 著・アメージング出版)より

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