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カット野菜の利便性から食を考える

カット野菜は、刻む手間が省けるだけではなく、切り口がいつまでもしなびなくて長持ちするのでいいと考えている人もいるかもしれません。あるいは、健康のためにランチにパックのサラダを買う人もいるのではないでしょうか。

安部司『食品の裏側』(東京経済新報社、2005年)の問題提起に、素朴な疑問として、なぜカット野菜やパックサラダは長持ちするのか? というのがあります。食品添加物の商社に勤務して、トップ営業マンだった安部氏の説明によると、実は殺菌剤(次亜塩素酸ソーダ)で消毒しているからといいます。しかも、殺菌剤を使っていても加工過程で使われただけで、製品に残っていないという理由で、表示は免除されているそうです。しかし、カット野菜やパックサラダの野菜の消毒現場は、それはすさまじいものがあるといいます。

殺菌剤の入ったプールに、カットされた野菜を次々と投げ込んで消毒します。しかも一度ではなく、濃度を変えて数回プールに入れます。メーカーによっては、食べたときのシャキシャキ感を出すために、さらにPH調整剤のプールにつけていたりします。そのような光景を見たら、普通の人は食べたいと思わないかもしれません。

このような事例から、少し考えたら何かおかしいと思うことを大切にした方がよいということを安部氏はいいます。そもそも食事を作るというのは手間暇がかかります。安易に加工食品に頼ることの危険性は味覚を害し、そもそも健康も害することにもつながります。日本語で「いただきます」といいますが、もちろん「命をいただく」という意味です。私たちはほかの生命をいただかなければ生きていけません。

安部氏は農家の出身で、子どものころ家で鶏を育てていたそうです。ひなにエサをまくことが仕事だったそうですが、ひなは4カ月から半年すると成長して、一人前の鶏になります。すると父親が今日はあの鶏をしめろと言うそうです。しめるときははさすがに涙が出たそうです。次の日、それがかしわご飯になって出てきたときは、そんなことは忘れているそうですが、それでも命の大切さ・尊さは、子ども心にも感じ取っていたのだと思うと述懐しています。私たちは食の利便性を獲得する代わりに、食を通じた思想・哲学を学ぶことの大切さを失っています。本当は時間をかけて学ぶべき大切なことがいっぱいあるはずなのです。

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