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「リスキリング」で気がつくリカレント教育の重要性

「リスキリング(reskilling)」という言葉が最近よく聞かれるようになりました。岸田首相も演説で言及したために、注目している人も多いと思います。リスキリングは、社会や企業のデジタル化の中で新しく生まれる職を得るための職業能力開発という文脈で使われます。経済産業省=リクルートワークス研究所「リスキリングとは - DX時代の人材戦略と世界の潮流 -」(2021年)の説明では、リスキリングは従来からある社会人の学び直しのリカレント(recurrent)教育とは異なるものといいます。

それでは、リスキリングとリカレント教育の決定的な違いは何でしょうか。それは誰が主導権を握っているのかということです。

リスキリングは、企業が労働者に対してデジタル時代の人材戦略として教育プログラムを提供していきます。あくまでも企業の都合だったりします。さらに、リスキリングについて、世界経済フォーラムでは、「2030年までに世界10億人をリスキルする」と宣言しており、個々の労働者の事情は考慮されていません。「リスキルする」、すなわち、労働者はリスキルされるという受け身なわけです。

しかし、リカレント教育は、労働者自身が自分のキャリアを考え、現時点で何が不足しているかを把握し、その不足を補うために何を学び、そしてどのように継続学習していくのかを決めます。明らかに労働者の内発的な動機が重要になります。

そこで、私たちはどちらを重視していくべきでしょうか。どちらも必要であろうということを前提にするとしても、どちらが主導権をとるのかという観点から考えると、リスキリングではなく労働者の自発性を尊重したリカレント教育だと思います。多くの人は「やらされている」という感覚がある限り、学びの効果を出すことが難しいでしょう。自分の能力開発や技能再教育は、自分自身で考えて設計していくものではないでしょうか。

今、AIやロボットによってなくなる仕事が増えて失業者であふれるという言説がみられますが、必ず人間が担う仕事は残ります。あるいは、AIやロボットのおかげで私たちの自由な時間が増えて自分が本当にやりたいことができる時代がくるのかもしれません。それに備えて、自発的な学び直しや継続学習が重要な時代になってくるでしょう。デジタル時代に対応できない労働者に対する脅威論ばかりが目につきますが、実は私たちに「自由」をもたらす側面も忘れずに、今こそリカレント教育で自分の人生を設計していくことが大切な時代なのかもしれません。

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