アリ社会は、自らの組織を長期的に存続させるために、非常に多様な人材(アリ)で構成された集団を形成していることがわかっています。また、アリ社会では、よく働くアリは3割程度で、残りの7割は働いていないというのは有名な話ですね。
長谷川英祐『働かないアリに意義がある』(中経の文庫、2016年)によると、この働かないで何もしていないアリの中には、生まれてから死ぬまで働かないアリもいるといいます。ただ、その働かないアリにも存在意義があり、働いているアリが疲れて働けなくなると、その働いていなかったアリが巣の存続のために働きだします。
また、一匹のアリが大きなエサをみつけて、そのエサを運ぶために他の仲間を呼び寄せるときに、フェロモンという匂い物質を地面につけて他のアリを導きます。賢いアリは、そのフェロモンの通り行動して行列を作るわけですが、たまに賢くないアリがいて異なる動きをすることがあるそうです。そして、バカな行動かと思いきや、実はフェロモンの通りの道のりよりも、その賢くないアリがエサまでの最短のコースをみつけることがあるそうです。これが、アリの世界のイノベーションなわけですが、人間世界にも通用する原理だと思います。あらゆることに無駄はなく、存在意義があるということです。
以上の観察は、組織にはぐれ者がいるほうが実は効率的なこともあるという実例なのですが、ここから得られる示唆は、とにかくどんな人とも協働してみよう、そしてその人の力を借りてみようということです。世の中の基準からするなら、優秀な人、平凡な人、あるいは働かないおじさんも含めて怠け者などいろいろな人がいます。しかし、あらゆる他者は、自分が持ち合わせていない視座や技能を持っていることになるので、どんどん他者から助けてもらい小さなイノベーションを起こしていくといいことなります。本当に小さくてもよく、その積み重ねで大きなイノベーションにつながることもあります。
そして、自分の所属する組織に限らず、組織外の力も借りれば、さらなる知見とノウハウが得られます。自分に税務・会計の知識が不足していれば、外部の税理士や会計士に助けてもらう、法務のノウハウが必要であれば、法律家に聞いてみる、マーケティングの手法を知りたければ、専門のマーケッターに頼ってみる、国際取引に壁があるのであれば、クロスボーダーのビジネスが得意なコンサルタントの力を借りてみるなど、とにかく他者に手伝ってもらいます。
タダでは動いてくれないだろうと思うかもしれませんが、そこは日ごろから自分の知見やノウハウは惜しみなく提供しておくことがカギです。自分の情報とノウハウが盗まれるなどという人がいますが、そんなものは、たいしたものではありません。それよりも、貸方と借方はかならずバランスします。今期借りたら来期は返すということで、長期的に付き合っていればいつかは「貸し借りなし」になります。そのようなネットワークの中で生きていると、自分の能力以上の成果が得られるものです。他者の力を借りることで大いにテコを効かせてイノベーションを起こしてみる方がはるかに生産性は高まるはずです。