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生産性を上げる働き方(5)- 小さく絞り込みフィールドを作る

今回で最終回になります。このような発想や方法もあるかな、という程度で参考にしてみてください。労働生産性を上げる方法は人それぞれというのが前提にあるからです。

労働時間削減については時間管理で有名なテイラーの科学的管理法などがあり参考になります。しかし、各労働者が取り組めることで労働生産性を高める方法は、意外にも私たちの「やる気」を高め、「個性」や「強み」にフォーカスした、ニッチ戦略が有用になります。

この点、生物学を研究している稲垣栄洋氏による『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書、2020年)は参考になります。生物の世界は厳しく、人間社会とは比較にならない激しい競争が繰り広げられ、ナンバーワンしか生き残れないそうです。ただ、食物連鎖の頂点にいる動物は、その下にいる動植物に「依存」しているので、下の動植物が減ると簡単に生存が危うくなる脆さがあります。よって、必ずしも強い生物がナンバーワンでもないそうです。

そして、ナンバーワンしか生き残れない自然界においても、地球上の生物すべてがナンバーワンになる方法があるといいます。それがオンリーワンのポジションをみつけることになります。この表現は、ビジネスの世界でも使いますが、生態学では「ニッチ」といいます。もともとは装飾品を飾るための教会の壁にあるくぼみのことで、一つのくぼみには一つの装飾品しか飾れないことから、一つのニッチには一つの生物種しかいられないという意味で使います。

人間社会も同じで、縄文時代を想起しても、力の強い人は獲物を狩りに行き、泳ぐのが得意な人は魚を獲ります。手先の器用な人は道具を作り、調理の得意な人は食事を作るなど、それぞれ得意な人が、得意なことをすることで成り立っていました。助け合う中で自然にニッチをみつけていたのでしょう。そして、現代社会でもニッチを探すことで、ナンバーワンになれるコツが二つあるといいます。

①小さく絞り込む
②フィールドを自分で作る

以上です。自分の強み、あるいは個性をみつめ続け、自分が活躍するにはどの分野が良いのか絞り込み、誰も手をつけてない分野でフィールドを作ってしまう。自分の個性が何かわからない人も多いので、当たりをつけて、その周辺で小さなチャレンジと失敗を続ける。いつかは自分だけのニッチがみつかるということです。

ただ、組織にいると当然与えられた課業というものがあります。課業をいかに短時間で効率的に遂行するのかというのが目の前にあります。それも大切なことを踏まえたとしても、そこに注力しすぎると仕事は与えられたものという受け身の姿勢から脱することができません。この受け身の姿勢こそが労働生産性が上がらない一つの理由でもあります。ですから、フィールドを自分で作り、仕事を「創造」する取組みが必要になるわけです。

そして、組織の発展やリスク管理のために、あえてニッチを取りに行くことが大切になります。なぜなら、会社でも学校でも組織というのは管理しやすいように、バラバラな個性を「揃える」ということをしてしまうからです。これが組織の崩壊を早めます。

たとえば、19世紀のアイルランドで飢餓が発生したのは、ジャガイモの品種を一つに揃えたためだそうです。収量の多い「優れた」品種のみを栽培していましたが、胴枯病という病気に弱く、アイルランドのジャガイモは壊滅的な被害を被ったそうです。

また、オナモミという雑草の実の中には、やや長い種子とやや短い種子の二つの種類があるそうです。長い種子の方はすぐに芽を出しやすく、一方の短い種子は、なかなか芽を出さずにのんびりしています。なぜなら、その時の環境によって、早く芽を出した方が良い場面と、遅く芽を出した方が良い場面があり、あえて異なる長さの種子を二つ用意してリスクを分散しているそうなのです。

また前回、アリの世界の話で、よく働くアリが3割で、残り7割は働いておらず、それでもその7割のアリにも組織の存続に必要であることを紹介しました。このように、組織の存続や発展のためにも、バラバラな個性というのはリスク管理としても機能していることになります。

人間の脳は、バラバラな個性を管理することが苦手です。複雑さを理解するのが難しいので、一定の基準に揃えて比較することで理解を容易にします。だから会社でも学校でもバラバラを揃えて管理しやすくします。「個性の時代」とかいいながら。しかし、それが逆に組織を弱めて、長期的な存続を危うくします。ですからあえて個性を活かして自分でフィールドを作るということは組織にも貢献しますし、労働者個人の生産性向上にもつながってくることになります。失敗することを前提に、「小さく絞り込み、フィールドを自分で作る」という自分プロジェクトにトライしてみてください。

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