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日本の環境問題の歴史

地球環境の保全などに向け、大気汚染、土壌汚染、悪臭など様々な環境問題に対する対策が実施されていますが、今回は日本の環境問題(以下、公害)の歴史についてご紹介させていただきます。

日本社会における典型的な公害

経済発展の過程で全世界のみならず、日本社会でも公害による自然環境破壊、生態系の破壊、人体への影響が確認され、歴史上、様々な対策が実施されてきました。

典型的な公害としては、①大気汚染、②水質汚濁、③土壌汚染、④騒音、⑤振動、⑥地盤沈下、⑦悪臭があり、それらは典型7公害と表されています。

日本の公害問題の歴史

日本の公害問題の原点は、明治時代に栃木県で発生した「足尾銅山鉱毒事件」と言われています。

また、その後も日本各地で多数の産業公害が発生し、その中でも水俣病などの四大公害病が深刻な社会問題となりましたので、それぞれの概要についてご説明します。

足尾銅山鉱毒

 足尾銅山鉱毒による公害事件であり、学校の教科書などでも紹介されているよく知られた事件です。

時代背景として銅精錬量が急増し,精錬の廃ガスである亜硫酸ガスにより、銅山周辺の山林が荒廃し、同鉱山周辺を水源地とする渡良瀬川が氾濫し、地域住民の生活に影響を及ぼしました。

また、精錬廃棄物が同河川に流入し荒廃したことにより、同河川水を利用している周辺農作物へ被害をもたらすに至ったと言われています。

これらの被害は 1890年頃より同河川での魚の大量浮上などが散見されるようになり、地域住民の鉱毒反対運動に繋がりました。

地元選出の衆議院議員であった田中正造氏はその運動の中心となり、時の明治天皇に議院前で直訴するなど精力的に働きかけた結果、地域住民などに対し巨額の損害補償をすることに至りました。

四大公害病

第二次世界大戦後、国内産業の重工業化が進むと共に1960年以降の高度経済成長期にかけ、多くの産業公害が発生し、特に四大工業病は深刻な社会問題となりました。

四大工業病は1970年代に各健康被害者を原告とする裁判が行われ、すべて原告側の勝訴となっています。

これらの裁判により公害の要因企業に対し損害賠償を命じると共に、企業の責任を厳しく追及した結果、その後の日本の環境問題対策へ繋がり、今日の公害対策先進国の礎となりました。

①水俣病

1956年頃、熊本県水俣市で発生、化学工場のアセトアルデヒド製造工程の工場排水に含まれていた微量のメチル水銀が水質汚濁の要因となりました。

それを濃縮蓄積した魚介類を地域住民が食べ、中枢神経系疾患による手足のしびれなどが発生しました。

②新潟水俣病(第二水俣病)

1965年頃、新潟県阿賀野川流域で発生、要因や症状は水俣病と類似しています。

③イタイイタイ病

1955年頃、富山県神通川流域で発生、鉱業所からの排水にカドミウムが含まれ、水質汚濁と土壌汚染の要因となりました。

症例としては腎臓障害が発生、そして骨がもろくなり骨折や減しい痛みを伴う健康被害へ繋がりました。

④四日市ぜんそく

1960~1970年頃、三重県四日市市で発生、石油化学コンビナートからの排ガスに硫黄酸化物が含まれ大気汚染を引き起こした結果、ぜんそくや気管支炎など呼吸系の健康被害へ繋がりました。

公害問題を踏まえた日本の対策

 上記のような問題について国としても対策を実施し、各法令の整備や対策へ繋がりました。

・公害対策基本法の制定 (1967年)

公害の定義や国、地方自治体・事業者の責務などを定めた日本での最初の環境対策の法律です。

その後、新たな地球環境問題の課題に対応するため、1993年に環境基本法が整備されましたので廃止となりあしたが、内容の大部分は引き継がれています。

・公害国会 (1970年)

1970年11月に臨時で開催された国会であり、14本の公害対策関連法が成立されたため公害国会と表されています。

・環境庁の設置(1971年)

現在の環境省の前身である組織として設置され、環境基準の設定やこれまで各省庁に分掌されていた工場における汚染物質の排出抑制を一元的に行うこととなりました。

・エンドパイプ型の技術革新

工場の排気や排水を環境に放出される排出口で処理することによって、環境負荷を軽減する技術の総称です。

例えば工場から排出される環境汚染物質を固定化したり、中和化したりする技術があり、電気集塵機やバグフィルターなどの装置が代表例です。

環境と共存できる社会の実現へ

日本の環境問題の歴史を振り返りましたが、被害に遭われた方々への追悼と、対策に尽力された先人たちの想いに改めて敬意を表します。

環境問題は時代の流れと共に変化しており、昨今では都市・生活型公害として、自動車による排ガスや騒音、生活雑排水による水質汚濁、都市集中型生活によるヒートアイランド減少などが挙げられます。

また、私たちの生活や経済活動から海へ流入したり、直接、海や河川へ放棄することが要因で発生しているプラスティック海洋ゴミ問題も深刻化しています。

更に地球温暖化の影響として言われている地球規模の環境変化、それに伴う自然災害の増加も大きな環境問題です。

環境への負担を出来る限り減らし共存できる社会の実現に向け、この豊かな地球を後世に伝えるために一人ひとりが出来る行動を続けましょう。

 

〈参考文献〉

■独立行政法人環境再生保全機構HP

https://www.erca.go.jp/
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