昭和の労働観における公私混同は、夜の接待や休日のゴルフも含めて、土日も休みなく働くということでした。1980年代後半に「24時間戦えますか」という栄養ドリンクの広告がありましたが、まさしく四六時中働くのが昭和の時代だったかもしれません。
しかし時代は変わりました。今ここでいっている「公私混同」はまったく別です。ある経営コンサルタントは、次のような趣旨のことをいいます。
「人は起きている時間、ほとんどを労働に費やしています。よって、もし仕事がおもしろくないという人がいれば、その人の人生全体がつまらないことになります。とにかく仕事を趣味にして楽しんでください。」
ここは知恵と工夫が必要です。「仕事が趣味です」というのは簡単ではありませんが、オフの時間にやっていることが仕事につながれば、ある意味で「公私混同」になります。
たとえば、読書が好きな人は、同時に5‐6冊読んで、そのうち半分は仕事に直接関係がありそうなテーマにしてみます。時差通勤できる方であれば、空いている電車の中でも文献や資料を読むことができます。座れれば自分専用の移動オフィスになるでしょう。そして、論文やレポートも執筆して自分の本業の業務に活用します。
仕事上のお付き合いは、もし自分が一緒にいて楽しいと思える相手であれば、できるだけ早い段階でプライベートでも接点を持たせてもらいます。それこそ、公私混同かもしれませんが、楽しいのであれば問題ないと整理しましょう。逆にプライベートで出会った人でも、仕事につながることがあれば、相手にメリットがあることを前提に本業につなげてみます。直接つながらなくても、間接的にどこかでつながることがあるかもしれません。
あるいは、仕事上の悩みや課題もプライベートな付き合いのある人に相談してみます。利害がない分、適切な助言を得られる可能性があります。人は頼られると嬉しいものです。遠慮することなく、ダメ元で相談してみると良いでしょう。反対に友人から相談されたら、自分の本業のつながりの中で解決策を探してあげます。最終的に解決できなくても、アクションを起こした事実に相手は感謝するものです。仮に本業にうまくつがりビジネスが創出できればかなりラッキーです。
また、小さなことですが、自宅のトイレ掃除や風呂掃除は、自分から進んでやってみます。料理もいいでしょう。なぜなら、家事をしている最中に仕事における課題の解決策がひらめくことが多いからです。これは「ひらめき」というものの不可思議さでもあります。
以上のように公私というのは、一本の線できれいに線引きできるほど単純ではないということです。そして、判断の基準を「楽しい」、「心地よい」と思えるとか、「ワクワクする」感情に置きます。
実は、前出の「24時間戦えますか」のメッセージは、「オンとオフを使い分けて戦おう」というのが、広告制作者の本来の意図だったそうです。しかし、当時のビジネスマンは、そのようには解さなかった。時代がバブル絶頂期だったこともあるでしょう。しかし、今はむしろ「オンとオフを使い分けて戦おう」という本来の意味に回帰したほうがよいわけです。オンでやっていることとオフでやっていることが連動するときに、労働生産性が飛躍的に向上します。
このように考えると、労働時間管理がいかに不毛であるかということになります。趣味で読んだ書籍からの知見、プライベートで出会った人脈、仕事で出会った人とのプライベートなお付き合い、土日にひらめいた直感、電車での移動中のインプット、いずれも、これらを創出するために使った時間を労働時間として算入するのは、今の制度では困難です。産業革命時代における工場労働者の労働時間管理を、そのまま現代に持ち込んでも機能しないということです。
現行の労務管理や労働法は時代に合わなくなってしまいました。よって、ここは過渡期ということで割り切り、既存の制度の枠組みの中でぜひ公私混同を楽しんでみてください。何度もいいますが「楽しい」、「心地よい」、あるいは「ワクワクする」などが判断基準です。今の時代、仕事に「遊び」の要素が必要な時代に入っていますので、この基準は意外に大切になります。
「仕事が趣味です」というのは、昭和時代の意味ではかなり恰好悪くみえるのですが、令和時代の労働生産性の向上という観点からは、かなり合理的な働き方ではないかと思います。