前回のおさらいと後編について
こちらの記事は『LGBTを読みとく―大きな誤解をしているかも―(前編)』の記事を最後まで読んでいただけていることが前提となっている後編の記事となっております。まだ前編を読んでいないという方は、ぜひ前編の記事をご覧になってからこちらを読んでいただければと思います。
前回ですが、LGBTの概念と説明、その中でも「性的指向」と「性自認」の二つに分けて理解をすることの重要性についてご紹介させていただきました。後編にあたる今回では、これらを踏まえたうえで現在の形になるまでにどのような歴史をたどってきたのかをご紹介させていただきます。引き続き参考文献は著者森山至貴さんの『LGBTを読みとく』になります。しっかりと落とし込むのに少し難しさのある文献ではありますが、非常にためになる内容であり、身近な大切な人、これから出会う人、そして自分自身にとって必要な知識であると思います。ですので、気になった方は実際に手に取って読んでいただければと思います。
同性愛の歴史的背景
ここからは同性愛の歴史的背景について見ていきましょう。まず同性愛はいつからあったのでしょうか。同性愛に関連した事実ははるか昔からあったようですが、それが「同性愛」という概念で理解され始めたのはここ100年から150年の間なのです。人類の歴史から考えると本当に最近のことであることが分かりますよね。
ではそれまでどのように考えられてきたのか。なんと、19世紀前半のイギリス、ドイツにおいて男性同士の性交渉は「犯罪」でした。スタート地点が犯罪でとされ、法律上だけでなく、その以前からは宗教上において許されないことであるとされていました。ここで注目したいのはこの時点ではまだ「同性愛」という概念は無いということです。
産業革命以降の時代でもあり、子どもたちが労働者として重宝されている時代でもありました。その貴重な労働力である子どもたちを富豪たちから守るために作られた法律だったのです。そこに変化を起こしたのがこの法律によって逮捕されたオスカーワイルドが行った「オスカーワイルド裁判」でした。オスカーワイルドは自分が行った行為は少年売春ではなく「同性愛である」とし、そこから徐々にこの法律に関しての反発の声が上がっていき、結果オスカーワイルドが無罪となった出来事でした。
しかし、ここでスムーズに「同性愛」が受け入れられたわけではありませんでした。19世紀後半、「同性愛」の概念は広まったものの、これは治すべき「病理」である、とされました。
そこから1950年代、ホモファイル運動が起こり、差別はうまく無くならなかったものの同性愛者同士のコミュニティが発足し、ともに連帯して協力していこうというつながりになっていきます。このコミュニティの活発化と成長により1960年代には警察によるゲイバーへの不当な捜査・弾圧によりゲイ解放運動が起こりました。このムーブメントはこれまでのコミュニティのつながりや成長があったからこそ大きくなった運動でもありました。
ここまでが同性愛の歴史的背景になります。理解される以前は犯罪や病気と考えられ、それが概念的には無くなってもずっと弾圧されていたということが分かりました。
トランスジェンダーの歴史的背景
では次に、トランスジェンダーの歴史的背景について見ていきましょう。トランスジェンダーは、非常に可視化することが難しく、認識・概念がしっかりと確立されたのは同性愛よりもずっと後のことでした。
トランスジェンダーにはトランスセクシュアル・トランスヴェスタイト・トランスジェンダーの3つの分類があることを前回お伝えしたかと思います。その中で初めて認識されたのは1910年代、トランスヴェスタイトでした。そして、トランスセクシュアルが認識されたのは戦後の1950年代です。初めて性別を一致させるための外科手術を受けた方が自伝を出したことから徐々に広まっていきました。今まで「精神的な病気」だと思われていましたが、精神的な治療ではなく肉体を性自認と一致させた方が良い場合の方が多いという概念・認識が生まれたのです。
ではなぜトランスジェンダーは認識が遅かったのか。それは、前述した通り可視化が同性愛よりも非常に難しかったことにあります。今までトランスジェンダーの方々は「同性愛」と混合して考えられていました。「男性で女性の格好をしているから同性愛者」のような性自認と性的指向がごちゃまぜになって認識されていたために、はっきりと二つに分けられていなかったのです。
こういった可視化について、同性愛やトランスジェンダーは男女の格差においてもLGBTは深く関連があります。それはゲイよりもレズビアンが認識されるのが遅かったことにあります。男性は女性よりも誰と一緒にいたいか、どうしたいかなど声を上げることがまだできていましたが、当時の女性は家が決めた相手と結婚をしなければならないなどという強制的に決められてしまうことが非常に多かったために、声を上げて可視化させていくことができなかったのです。女性の権利の抑圧がここにも深くかかわっていたことが分かりますね。当時の当事者は「どうすればいいのかわからない」と苦しまれていたのではないでしょうか。
まとめ
ここまでで同性愛の歴史とトランスジェンダーの歴史を見ていきました。この歴史的背景の中でたくさんの差別を受け、格闘してきたことがお分かりいただけたのではないかと思います。これらの歴史があったからこそ、その後1980年代には「エイズはゲイがかかる病気」とされた差別・誤解などを解いていくために「クィア・スタディーズ」という研究チームも生まれました。しかし、そのうえでまだまだ課題は溢れています。
日本における議論として今なお続いている同性婚やパートナーシップ制度、性同一性障害という名前…。なぜずっとこの議論は行われているのでしょうか。それはセクシャルマイノリティの方々の正しい理解と、しっかりとその声に耳を傾けることができていないことにあるのではないでしょうか。
社会というものは私たち一人ひとりが集まって存在しているものです。マイノリティはその社会から生まれるのです。その社会の一員である私たちが、正しい理解をしていくことがどれだけ大切であるか。私たちの理解がすべての人々がその人らしい豊かな人生を送ることにつながっていくのです。
今回前編と後編に分けてご紹介したもの以外にも重要な概念などが参考文献にたくさん記載されておりますので、さらに理解を深めてみませんか?
参考文献:『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』(筑摩書房)著者:森山至貴